縄文人とかってどんな夢を見てたんだろうか

大体全ての人の脳に「夢を見る」という機能が付いているというのは、よくよく考えてみると不思議だ。あまり必要な機能だとは思えないのだもの。楽しい夢だけならまだ理解できるけれど、身の毛もよだつような怖い夢なんて訳が分からない。寝ている時ぐらい、そういう機能は全部切っちゃえれば良いのに。
何でそんな事を思ったのかというと、一応理由が有る。昨日、新宿御宛駅近くのベトナム料理屋でご飯を食べていた時、近くに座っていた男女二人組の男子の方がこんな話をしていたのだ。
「おれ、夢って見た事無いんですよ」
それを対面で聞いていた女の子も、背後で盗み聞きしていた私も、たいそう驚いた。
「え、そんな事って有るんですか?」
その男子の話を総合すると、彼は「夢というものを見たことが無い」「夜布団に入ると、いつの間にか寝てしまい、気付いたら朝が来ている」「小さい頃からこれが普通だから、変だと思った事は無いし、夢を見るというのがどういう事なのかも、うまくイメージできない」「もしかしたら実際には夢を見ているのかも知れないが、少なくとも自分では覚えていない」「自分以外にも、そういう人はごく希にいるらしい。前、誰かがそんな事をブログに書いているのを読んだ」。大体、そんな感じ。その男子の外見はあまりはっきりとは見ていないけど、声を聞く感じでは全然普通の20代男子のようだった。ほどなくして、彼らの話題はテーブルの上にやってきた生春巻きに移ってしまったので、結局それ以上の詳しい話は聞けなかった。あと、彼らの話に夢中になりすぎていたせいで、同席していた相手に怒られた。
ちなみに、夢の話をしていた男女2人組は、恋人同士というわけでは無いまでも、最近知り合ってちょっと良い雰囲気になりつつあるような関係だったらしい。もしかしたら、その男の話は、会話のネタにするための作り話だったのかも知れない。
戯れに、検索エンジンに「夢を見た事が無い」というフレーズを打ち込んでみると、出てきたのは素人の小説サイトが多かった。彼らにとって「夢を見た事が無い」というのは、ある種の人々にとっては、何らかのロマンティックな創作意欲をかきたてるものなのだろうか。
かく言う私はよく夢を見る。今日は足の甲に大量の毛がモジャモジャと生えて難儀する夢を見た。こんな話、会話のネタにもなりやしない。

帰省期間70分

久しぶりに実家に帰ると、弟から借金の無心をされた。
私は決して大尽では無いし、弟の事もそんなに好きでは無いからお金なんて貸したくなかったのだが、無下に断って後々で面倒くさい事に巻き込まれるのも嫌なので、話を聞いてみる事にした。しかし、「いや、彼女への誕生日プレゼントを」などと言う弟の口ぶりからはどうにも怪しいものを感じずにはいられなかった。私と目を合わせようともしなかったし、そもそも弟は、つい3ヶ月ほど前にも「彼女の誕生日」という名目で私からお金をせしめようとしているのだ。大体、1ヶ月のうち25日は家で漫画を読んだり、下手糞なギターを弾いているような弟に彼女なんている筈が無い。その辺りを、追求していくと、弟はようやく重い口を開いて事情を説明しだした。
「何か変なメールが来て、そこに書いてあったアドレスをクリックしたら、変なサイトに登録されちゃって、『3日以内に入会費48000円を払え』って」
驚いた。私は、私の弟の愚かさについては、それなりに承知していたつもりだったが、きょうび、そんな使い古された詐欺の手口にコロリと引っかかる程、愚かだとは思ってもいなかった。どうせ、「変なメール」というのも嘘なのだろう。アダルトサイトのせこい手口にでも引っかかったに決まっている。
私は、弟に対して、「それは詐欺であり、あなたに料金を支払わないといけないような義務は一切無い」という事を懇々と説明したのだが、彼は、なおも「でもオレのパソコンのデータとか向こうに知られてるし」だの、「多分、なんか解析とかされてるっぽいし」だの、お爺ちゃんのような戯言を止めようとしない。腹立たしい事に「ここでお金を払わなくて、裁判とかになっちゃったら、お前らにも迷惑をかけるから」などと言い出す始末だ。私は、そんな話を聞かされている時点で、十分すぎる程に迷惑をうけている。口先だけで、「家族を心配しているオレ」を演じて同情を得ようだなんてムシが良すぎる。
私は、とにかく話を早く終わらせようと思い、「とにかく、お金を払わないといけない義務なんて無いんだから、この事は忘れるように。業者にメールで問い合わせをするような事だけは絶対しないように」と告げた瞬間、弟の顔面は真っ青になった。「もうメール送っちゃった」。
弟のあまりの愚かさに嫌気がさした私は、何も言わずに実家をあとにした。こんな話、いまどきのブログでは笑い話にもならない。

こうだったら良いのに

遠い国のお話。
その国には「英雄」として皆から愛されていたアスリートがいました。豊かな実績、朗らかな人柄、ちょっと間の抜けた言動、そういった全ての要素が彼の魅力を形成していました。
しかし、英雄といえども所詮は人間。よる年波には勝てず、ある日、急な病気で糸が切れたように亡くなってしまいました。いささか早すぎる死ではありましたが、総合的に見て幸せな人生を全うした、と言っても差し支えの無いような生涯だっと言えるでしょう。その死顔は非常に安らかであったとの事です。
しかし、ある、いざこざが起きました。英雄のスポンサーと、政府の権力者たちは、英雄の死を公表する事を渋り始めたのです。彼らは英雄がこれから先、まだまだ健在である事を予測した上で、多くのプロジェクトを進行させていたのです。世界的なスポーツイベントにおける国家の顔役、多額の経済効果がみこめるコマーシャルへの出演、英雄の功績を記録したDVDの販促キャンペーンなどなど。つまり、彼らにとって、英雄が今亡くなってしまう事は都合が悪かったのです。まだまだ国を代表するイコンとして存在し続けてもらわなければいけないのです。
そこで、彼らは、一旦英雄には「治療のために入院している」という事にしてもらい、その期間中、極秘裏に、英雄に似た風貌の男を探して、影武者に仕立て上げるプロジェクトチームを組織する事にしたのでず。影武者として白羽が立ったのは、南千住…じゃなくて、とある労働者街にいた一人のとび職の男でした。プロジェクトチームはとび職の男に多額の(とは言っても、英雄が得ていた年収の10分の1にも満たない額でしたが)報酬を渡して、彼の残りの人生を買い取ってしまいました。「これから残りの人生を、あなたはあの英雄として送ってもらいます」。自身もその英雄に多大なる憧れを抱いていたとび職の男は一も二も無く了解しました。その日から、徹底した影武者作りの日々が始まります。まず、とび職の男には整形手術が施されました。元から、英雄に顔立ちが似ていた彼の顔は、駄目押しの整形によって、まったくの瓜二つに仕上がりました。また、1日10時間以上、英雄の生前のビデオを観ながら、その細かい仕草や、些細な癖、発語の際のイントネーションをマスターするためのレッスンが行われました。英雄が、今までどういう人生を送ってきたのか、どういう経験を積んできたのか、どういう交友関係を築いてきたのかを、完全に暗記するまで何度も何度も教え込まれました。
しかし、元とび職の影武者は覚えが悪く、なかなか生前の英雄のようにはなれません。当初の予定では3ヶ月で表舞台に顔を出させるはずだったのですが、半年経っても、1年経っても、「復帰」の目処が立たないのです。プロジェクトチームは焦りました。既に一部の国民の間では「英雄はもう亡くなってしまったのでは無いか」という噂がまことしやかに流れています。
そして、英雄の死から1年と4ヶ月ほどが経ったある日、とうとうプロジェクトチームは影武者を世間の目に晒す決心をしました。影武者は、主に喋り方や、知識のレベルで、影武者はまだ、とても人前に堂々と見せられるようなレベルでは無かったのですが、細かい仕草等に関しては既に問題の無いレベルにまで成熟していたので、一切喋らず、カメラも近づけさせないようにすれば大丈夫だろう、と判断したのです。「英雄がかつて所属していたチームの応援にやってきた」という設定で、VIP席にいる姿をカメラに遠くから写させる程度なら世間の目は欺けるはずだ、と。
以下略

カラオケに随分行っていない。
そんな言い方をすると、以前は頻繁に行ってたみたいだけど、そういう訳でも無くて、昔から、断りきれない付き合い以外でカラオケに行った事が無い。
私にとって最初のカラオケ体験は幼稚園の頃に行った誰かの披露宴会場だ。当時、カラオケというものに対する知識が稀薄だった私にとって、周りの大人が代わる代わる、私が聴いた事の無いような演歌や歌謡曲を気持ち良さそうに歌いあげている様は、とても奇妙なものに感じられた。大人が人前で大声で歌っている、という事態がうまく飲み込めなかったし、歌われている歌の意味が全然分からなかった事も私を闇雲に不安にさせた。まるで、絵本に出てくるような鬼の集会に紛れ込んでしまったような気分になった事を何と無く覚えている。その時に式を挙げた夫婦が、私にとって誰にあたるのかって事は全然覚えて無いのに。
高校生にもなると、体育祭や球技大会といったイベントの際に「打ち上げ」と称して皆でカラオケに行く機会も有ったのだが、級友たちが、薄っぺらい歌詞のJ-POPを気持ち良さそうに歌っているのをおとなしく聴き続ける忍耐力も、当時大好きだったBECKWeezerを堂々と歌うような度胸も無かった私は、隅っこで、同じように時間を持て余していた、スヌーザーを愛読しているような男の子と2人で妙に甘いカルアミルクを汲み交わす事ぐらいしかやる事が無かったので、それ以来クラスメイトとカラオケに行く事は無くなった。そもそも、体育祭に代表されるようなイベントの大半を、さぼり倒してたし。
そんな私だが、先日久しぶりにカラオケに行く機会があった。
地元のパンクバンドを観に、ちょっと遠くのライブハウスに行ったのだが、ついうっかりして終電を逃してしまった時、駅の前で立ちすくんでいたら、同じような境遇にあったとおぼしき男子に声をかけられ、一緒にカラオケのオールナイトで時間を潰す事になったのだ。999円で飲み放題付き。
カラオケ屋に行く道すがら、彼の話を聞いてみると、その日、私が行ったライブハウスに出演していた私のお目当てのバンドの対バンのバンドのメンバーだったらしい。私も一応、彼らの演奏の最初の方は観ていたのだけれど、ボーカルの人の自己陶酔しきった歌い方が気持ち悪くて、3分ぐらいで会場を出てしまった。その事を告げると、彼(ドラムだったらしい)は苦笑していた。「あいつ、練習の時から、あんななんだよ」。
その後、カラオケ屋で2人して安っぽいカクテルを飲みつつ、詮無い会話(『最近、身近で起きた変な話』という振りで始まる、身近で起きた出来事でも無い限り、ぜんぜん面白くも何とも無い話)をしつつ、会話の間が空いたら、どちらかが何か曲を歌い、歌っていない方が何か別の話題を考える、という不毛な時間を5時間ほどおくった。私は、いけすかないメガネ男子がボーカルの3人組バンドの曲や、もう何年も表舞台に出てこない渋谷系の旗手の曲を歌い、向こうは、何か私がよく知らないビジュアル系のバンドの曲を何曲も歌っていた。そういえば、この人のバンドのボーカルの人の立ち居振る舞いは、ビジュアル系の人達のそれに似ていたような気がする。結局は同じ穴のムジナなんだな。
朝5時過ぎ、体内に色々な毒素が溜まりきったような状態で店を出て、2人で並んで駅に向った。2人とも使う電車の路線が違うので、駅の改札口から入った所にあるスペース(あそこ、何て言うんだろう?)でお別れだった。私が「多分、もう二度と会う事も無いんでしょうね」と言うと、向こうからも「そうでしょうね」って言われたのが、ちょっと面白かった。

人の話

男の兄弟を持っている女の子の友達とお酒を飲みながら喋っていると、「兄(or弟)が、もし肉親じゃ無かったら好きになっていた」っていう話になる事がたまにある。親族全般に対して、できるだけ係わり合いになりたくない、と願っている私には信じられない話なのだけれど。


Nさんは、モデルみたいな顔をして、細身のスタイルの美人で、私の友達の元カノだった人だ。彼女には3つ下の巨大な弟がいる。最初に私がNさんの弟を見たのは、数年前に、クラブに遊びに行った時だ。あまりにも大きくて周囲に威圧感を与えている怖い人と、Nさんが仲良さそうにしているのを見て「誰、あの大きい人?」と聞いたら、Nさん、屈託の無い笑顔で「オトウト!」って。触れたら壊れてしまいそうなNさんと、750ccのバイクでぶつかってもビクともしないような弟さんが、同じ家で同じ食べ物を食べて育っただなんて、とても信じられなかったのだけれど、言われてみると確かに、どことなく目元が似ていた。それ以降も、Nさんと弟さんは、クラブや、ライブハウスや、フェス会場でちょくちょく見かけた。大体2人連れ。たまにNさん1人。弟さん1人だけ、という事は殆ど無かった。いつだったか、30過ぎぐらいの男性兄弟ユニットのライブに、Nさんが1人だけで来ていた時、「今日は弟さんはいないんですか?」って聞いてみたら、「今日は私1人でも安全そうだから」って。まるでボディガードのような弟さん。そういえば、私がNさんの弟さんを見るようになったのは、Nさんが私の友達と別れてからだ。「彼と付き合ってた頃は、彼が一緒にいてくれたけど、今はいないから」。そう言う、Nさんに「じゃあ、弟さんが彼氏の替わりって事ですか?」って私がちょっと生意気な質問をすると、Nさんは笑って首を振っただけだった。
今にして思うと、弟さんは彼氏の替わりだったわけでは無くて、Nさんの彼氏が弟さんの替わりだったのかも知れない。決して一緒にはなれない恋人の代替品。
それからしばらくして、Nさんとは連絡が取れなくなった。私達の住む街を離れた、っていう話は聞かないけれど、今までNさんがよく出没していたような場所に行っても、全然会えない。巨大な弟さんにも。


大学で同じクラスになったYさんはお兄さんのことが好きだったらしい。「子供の頃からずっと好きなんだけどさ、その事を告白して、もし駄目だったら、その後が辛いでしょ。これから、どっちかが死ぬまでずっと付き合っていかないといけない相手なんだから、気まずい感じになっちゃったら嫌だし、たとえ向こうがあたしの事を好いてくれても、結局それはそれで気まずいし」。そんなYさんは、そこそこの男の子と付き合っては、別れてを繰り返している。お兄さんには既にお嫁さんがいて、2人の間には子供までいるらしい。「最近、やっと叔母ちゃんって呼ばれる事に慣れてきたよ」。多分、その「慣れ」はダブルミーニングなんだろうなあ、って勝手に思っている。

一昔前なら「初めてのキスはレモン味」というフレーズが、一周回ったギャグとして機能していたけど、今となっては一周半して180゜向こう側に行ってしまっていて、笑って良いのか、クエスチョンマークを出せば良いのかよく分からない。ちなみに私のファーストキスの味は無味だった。最近でもそんなに味を感じる事は無い。ただ恋人からはたまに「キスすると煙草臭い」という指摘を受ける。もし、今、私が小学校にでも潜り込んでそこの生徒の唇を奪ったら、その子にとってのファーストキスの味は「煙草味」という事になるんだろうな。あまり、ロマンティックじゃないし、そもそも、ポリス沙汰になってしまう時点で色々問題有りだ。味というのとはちょっと違うけれど、この前テレビで昔のドラマの再放送を見ていたら、ビッチっぽい顔の女性俳優とキスをした主人公の冷たい二枚目っぽい男性俳優が、その女性と別れた直後にハンカチで唇を拭う、というシーンがあって、ちょっと感心した。キスをした直後に唇を拭いたくなる、っていう心境って、好きじゃない人とキスしたことが無いと分からない。
私の場合、初めてのキスからして特に好きじゃない相手となりゆきで、という形だったので、特に良い思い出では無い。と言うより、むしろ無かった事にしてしまいたい。そんな相手に興味本位で唇を許してしまった昔の自分を殴りつけてやりたいぐらいだ。ただ、実際に殴りつけた所で、あれから結構な時間が経った今でも、そんなに好きじゃない相手とキスをする事が有ったりする私から、殴りつけられた昔の私としても、多分納得行かないんだろうなあ、って思う。そんな詮無い空想。

隣人

隣人が消えてしまった。
生まれ付き、人付き合いにクールな現代人(a.k.a.内弁慶の人見知り)である私は、常々隣近所との付き合いは極力避けてきたのだけれど、それにしても最近は隣人を全然見かけない。そして、ちょっと事態は不自然だ。
元々、私の部屋の隣には私よりちょっと年下で暗い顔をした茶髪の男の子が住んでいたのだけれど、ある日突然どこの誰とも知れない中東系の中年男に入れ替わってしまっていたのだ。しかも、複数の中東系が入れ替わり立ち替わり。私の住んでるマンションのスペックは一人暮らしの若者に相応しいものであり、あまり成人男性が複数で住むことには向いていないのだけれど、アジアから来て働いている人達が五人ぐらいで住んでるような部屋は幾つか有る。隣の部屋の中東系さん達もそういうケースなのかも知れない。ただ、それならそれで全く問題は無いのだけれど、部屋の表札はいまだに茶髪の日本人の男の子が住んでいた頃と変わらないし、ベランダにかかっている服や、冷蔵庫の品種といったものも変わっていない。考えうるケースは二つ。茶髪の日本人の男の子が、執拗に中東系っぽい外見に変わる整形手術を繰り返しているのか、茶髪の男の子の家に、中東系の人達が押し入って部屋を乗っ取ってしまったのか。
とりあえず今現在、私を悩ませているのは、隣人の郵便受けから溢れかえってしまっている大量の封書類と、四十六時中隣の部屋から漂ってくる奇妙な腐臭だ。
悪趣味な私は勝手に想像を膨らませてみる。ちょっと内気だった茶髪の男の子の家に、ある日突然ビザが切れたか何かで潜伏先を探している中東系の外国人たちが押し入ってきたんじゃないか、って。外国人は男の子を殺しちゃって、腐っちゃったその死体をどうするかで考えあぐねているんじゃないか、って。ちょっとだけ、『誰も知らない』みたいな話。いつまでも続くわけが無いし、希望なんて無いんだけど、何故かどこか甘美な話。多分、事実はきっともっと退屈でありふれた話なんだろうけれど。