カラオケに随分行っていない。
そんな言い方をすると、以前は頻繁に行ってたみたいだけど、そういう訳でも無くて、昔から、断りきれない付き合い以外でカラオケに行った事が無い。
私にとって最初のカラオケ体験は幼稚園の頃に行った誰かの披露宴会場だ。当時、カラオケというものに対する知識が稀薄だった私にとって、周りの大人が代わる代わる、私が聴いた事の無いような演歌や歌謡曲を気持ち良さそうに歌いあげている様は、とても奇妙なものに感じられた。大人が人前で大声で歌っている、という事態がうまく飲み込めなかったし、歌われている歌の意味が全然分からなかった事も私を闇雲に不安にさせた。まるで、絵本に出てくるような鬼の集会に紛れ込んでしまったような気分になった事を何と無く覚えている。その時に式を挙げた夫婦が、私にとって誰にあたるのかって事は全然覚えて無いのに。
高校生にもなると、体育祭や球技大会といったイベントの際に「打ち上げ」と称して皆でカラオケに行く機会も有ったのだが、級友たちが、薄っぺらい歌詞のJ-POPを気持ち良さそうに歌っているのをおとなしく聴き続ける忍耐力も、当時大好きだったBECKWeezerを堂々と歌うような度胸も無かった私は、隅っこで、同じように時間を持て余していた、スヌーザーを愛読しているような男の子と2人で妙に甘いカルアミルクを汲み交わす事ぐらいしかやる事が無かったので、それ以来クラスメイトとカラオケに行く事は無くなった。そもそも、体育祭に代表されるようなイベントの大半を、さぼり倒してたし。
そんな私だが、先日久しぶりにカラオケに行く機会があった。
地元のパンクバンドを観に、ちょっと遠くのライブハウスに行ったのだが、ついうっかりして終電を逃してしまった時、駅の前で立ちすくんでいたら、同じような境遇にあったとおぼしき男子に声をかけられ、一緒にカラオケのオールナイトで時間を潰す事になったのだ。999円で飲み放題付き。
カラオケ屋に行く道すがら、彼の話を聞いてみると、その日、私が行ったライブハウスに出演していた私のお目当てのバンドの対バンのバンドのメンバーだったらしい。私も一応、彼らの演奏の最初の方は観ていたのだけれど、ボーカルの人の自己陶酔しきった歌い方が気持ち悪くて、3分ぐらいで会場を出てしまった。その事を告げると、彼(ドラムだったらしい)は苦笑していた。「あいつ、練習の時から、あんななんだよ」。
その後、カラオケ屋で2人して安っぽいカクテルを飲みつつ、詮無い会話(『最近、身近で起きた変な話』という振りで始まる、身近で起きた出来事でも無い限り、ぜんぜん面白くも何とも無い話)をしつつ、会話の間が空いたら、どちらかが何か曲を歌い、歌っていない方が何か別の話題を考える、という不毛な時間を5時間ほどおくった。私は、いけすかないメガネ男子がボーカルの3人組バンドの曲や、もう何年も表舞台に出てこない渋谷系の旗手の曲を歌い、向こうは、何か私がよく知らないビジュアル系のバンドの曲を何曲も歌っていた。そういえば、この人のバンドのボーカルの人の立ち居振る舞いは、ビジュアル系の人達のそれに似ていたような気がする。結局は同じ穴のムジナなんだな。
朝5時過ぎ、体内に色々な毒素が溜まりきったような状態で店を出て、2人で並んで駅に向った。2人とも使う電車の路線が違うので、駅の改札口から入った所にあるスペース(あそこ、何て言うんだろう?)でお別れだった。私が「多分、もう二度と会う事も無いんでしょうね」と言うと、向こうからも「そうでしょうね」って言われたのが、ちょっと面白かった。