帰省期間70分

久しぶりに実家に帰ると、弟から借金の無心をされた。
私は決して大尽では無いし、弟の事もそんなに好きでは無いからお金なんて貸したくなかったのだが、無下に断って後々で面倒くさい事に巻き込まれるのも嫌なので、話を聞いてみる事にした。しかし、「いや、彼女への誕生日プレゼントを」などと言う弟の口ぶりからはどうにも怪しいものを感じずにはいられなかった。私と目を合わせようともしなかったし、そもそも弟は、つい3ヶ月ほど前にも「彼女の誕生日」という名目で私からお金をせしめようとしているのだ。大体、1ヶ月のうち25日は家で漫画を読んだり、下手糞なギターを弾いているような弟に彼女なんている筈が無い。その辺りを、追求していくと、弟はようやく重い口を開いて事情を説明しだした。
「何か変なメールが来て、そこに書いてあったアドレスをクリックしたら、変なサイトに登録されちゃって、『3日以内に入会費48000円を払え』って」
驚いた。私は、私の弟の愚かさについては、それなりに承知していたつもりだったが、きょうび、そんな使い古された詐欺の手口にコロリと引っかかる程、愚かだとは思ってもいなかった。どうせ、「変なメール」というのも嘘なのだろう。アダルトサイトのせこい手口にでも引っかかったに決まっている。
私は、弟に対して、「それは詐欺であり、あなたに料金を支払わないといけないような義務は一切無い」という事を懇々と説明したのだが、彼は、なおも「でもオレのパソコンのデータとか向こうに知られてるし」だの、「多分、なんか解析とかされてるっぽいし」だの、お爺ちゃんのような戯言を止めようとしない。腹立たしい事に「ここでお金を払わなくて、裁判とかになっちゃったら、お前らにも迷惑をかけるから」などと言い出す始末だ。私は、そんな話を聞かされている時点で、十分すぎる程に迷惑をうけている。口先だけで、「家族を心配しているオレ」を演じて同情を得ようだなんてムシが良すぎる。
私は、とにかく話を早く終わらせようと思い、「とにかく、お金を払わないといけない義務なんて無いんだから、この事は忘れるように。業者にメールで問い合わせをするような事だけは絶対しないように」と告げた瞬間、弟の顔面は真っ青になった。「もうメール送っちゃった」。
弟のあまりの愚かさに嫌気がさした私は、何も言わずに実家をあとにした。こんな話、いまどきのブログでは笑い話にもならない。