人の話

男の兄弟を持っている女の子の友達とお酒を飲みながら喋っていると、「兄(or弟)が、もし肉親じゃ無かったら好きになっていた」っていう話になる事がたまにある。親族全般に対して、できるだけ係わり合いになりたくない、と願っている私には信じられない話なのだけれど。


Nさんは、モデルみたいな顔をして、細身のスタイルの美人で、私の友達の元カノだった人だ。彼女には3つ下の巨大な弟がいる。最初に私がNさんの弟を見たのは、数年前に、クラブに遊びに行った時だ。あまりにも大きくて周囲に威圧感を与えている怖い人と、Nさんが仲良さそうにしているのを見て「誰、あの大きい人?」と聞いたら、Nさん、屈託の無い笑顔で「オトウト!」って。触れたら壊れてしまいそうなNさんと、750ccのバイクでぶつかってもビクともしないような弟さんが、同じ家で同じ食べ物を食べて育っただなんて、とても信じられなかったのだけれど、言われてみると確かに、どことなく目元が似ていた。それ以降も、Nさんと弟さんは、クラブや、ライブハウスや、フェス会場でちょくちょく見かけた。大体2人連れ。たまにNさん1人。弟さん1人だけ、という事は殆ど無かった。いつだったか、30過ぎぐらいの男性兄弟ユニットのライブに、Nさんが1人だけで来ていた時、「今日は弟さんはいないんですか?」って聞いてみたら、「今日は私1人でも安全そうだから」って。まるでボディガードのような弟さん。そういえば、私がNさんの弟さんを見るようになったのは、Nさんが私の友達と別れてからだ。「彼と付き合ってた頃は、彼が一緒にいてくれたけど、今はいないから」。そう言う、Nさんに「じゃあ、弟さんが彼氏の替わりって事ですか?」って私がちょっと生意気な質問をすると、Nさんは笑って首を振っただけだった。
今にして思うと、弟さんは彼氏の替わりだったわけでは無くて、Nさんの彼氏が弟さんの替わりだったのかも知れない。決して一緒にはなれない恋人の代替品。
それからしばらくして、Nさんとは連絡が取れなくなった。私達の住む街を離れた、っていう話は聞かないけれど、今までNさんがよく出没していたような場所に行っても、全然会えない。巨大な弟さんにも。


大学で同じクラスになったYさんはお兄さんのことが好きだったらしい。「子供の頃からずっと好きなんだけどさ、その事を告白して、もし駄目だったら、その後が辛いでしょ。これから、どっちかが死ぬまでずっと付き合っていかないといけない相手なんだから、気まずい感じになっちゃったら嫌だし、たとえ向こうがあたしの事を好いてくれても、結局それはそれで気まずいし」。そんなYさんは、そこそこの男の子と付き合っては、別れてを繰り返している。お兄さんには既にお嫁さんがいて、2人の間には子供までいるらしい。「最近、やっと叔母ちゃんって呼ばれる事に慣れてきたよ」。多分、その「慣れ」はダブルミーニングなんだろうなあ、って勝手に思っている。